有明先生と瑞穂さん
「あ、このあたりです」


まるで逃げるかのように本棚に向かい、瑞穂は数冊手に取る。

瑞穂は早くこの時間が過ぎてしまえばいいと思うのだが、やはりそうはいかない。



「・・・俺と話すの、嫌?」


瑞穂のすぐ後ろで有明が、低く小さい声でそう聞いた。


本棚の方を向いたまま振向くことができない。



「そんな・・・ことは・・・」


「・・・聞かれたくないのかもしれないけど」



有明は更に声をひそめて瑞穂の顔の隣に手をついた。



「どうして、俺のこと避けてるの?」



予想通りの言葉を瑞穂に投げかける。



――全てはっきりしない、何も伝えないまま突然態度を翻した瑞穂が悪いのだが・・・


極度の緊張に手が小刻みに震えた。


(でも・・・今はまだ・・・)


何も言えない。

その理由が瑞穂にはあった。



「・・・先生、ここではあんまりそういう話は・・・」

「だって瑞穂さん、電話も出てくれないしメールも返事くれないじゃない」


笑いながら瑞穂を遮って言った言葉はもっともで、言い返すことができない。
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