有明先生と瑞穂さん
「どうしたんですか?」

明らかに様子の違う口之津の顔を覗き込むと、長い前髪に隠れた顔は眉間にシワを寄せ、まるで叱られた犬のような顔をしていた。


「・・・悪かったなあ」

「えっ?」

「また俺、熱くなりすぎてお前に迷惑かけちまった」


驚いた。
まさか口之津が自分の行動を反省していたなんて――。

(迷惑は私以外にもかけてるけど・・・)

何も考えていないと思いこんでいた。


(そういえばこの人、すぐカッとなってまわり見えなくなるけど・・・きちんと客観的に分析できる人だったなあ)


瑞穂は初めて校内で話した時のことを思い出す。


「・・・人が真剣に話してんのに何ニヤニヤしてんだ」

「えっ?!あ、ホントだ、つい」

慌てて口元を両手で隠すと口之津が瑞穂のおでこを思いっきり指ではじいた。


「はあ・・・俺この学校来てから余計にうまくいかねぇんだ。
教師、向いてないのかもな」

「意外と繊細なんですね・・・」

「うるせえ」

「私は、そんなことないと思いますけど」


口之津が目を見開く。
きっと『冷静に』『客観的に』考えても、他人の目から見てでも自分は教師には向かないと考えていたのだろう。
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