有明先生と瑞穂さん
夕方雨が降り出した――



天気予報で雨だと言っていたのに傘を忘れた。

それでもたいしたことはないからとそのまま帰る。

体育館の前をこっそり通るとバスケ部の、湿気で滑りにくくなったシューズの音が耳についた。


瑞穂はもう有馬と帰ったらしい。
深江は俺を探していたらしいが、一人になりたくてわざと避けた。


(体なまったかなあ・・・)


ムシャクシャするこの気持ちを吹き飛ばしたくて全力で走る。

駅までは簡単についたのにそれでもまだ走り足りなくて、電車から降りてもずっと走った。


家に着く頃には雨は更にひどくなったのに、それでも走り足りなくて玄関に鞄を投げ捨てまた走りに出る。


いつもランニングコースで通る瑞穂のマンションの前はわざと避けた。




(俺何がしたいんだろ・・・馬鹿みたいだな)


こんな青春ごっこ。馬鹿みてぇ。




早く走れば瑞穂が笑った。
鉄棒や縄跳びができれば瑞穂が目を輝かせた。
1年でバスケでレギュラーを取れたら、瑞穂が自分のことのように喜んだ。

全部全部瑞穂の気を引きたいから。



でもそれ以前から俺は体を動かすことが好きだった。







瑞穂が俺を選ばなかった理由――わかってたんだ。
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