有明先生と瑞穂さん
結局チークは買わなかった。

隣で陰気な顔されてちゃコッチも気分が乗らない――。


「あーあ、2点以上買ったらもらえるポーチ、欲しかったのにな・・・」

独り言のように呟いた言葉に返事はない。

これみよがしにふてくされているのか、それともそれすら無自覚なのか――面倒な男。


有明先生ならきっとこんなことはしない。
一番に彼女を気遣うんだ。
こっちが気に掛けてあげなきゃ気付かないくらいお姫様扱いするに決まってる。



「・・・ねえ、お腹すいたんだけど」


今日はアンタに付き合ってあげてるんだからね。
無理だとは思うけどアンタなりに精一杯ウチをもてなしなさい。


「おお、そうか。何食いたい?」

「高級レストランとか予約入れてないの?」

「そういうのは普通夜じゃねーのか?
食いたいなら、夜でよければ今から店探すけど」

「いらないわよ!」


気持ちの問題なのよ!わかんない男ね。


「じゃあ今は何が食いたいんだよ」



「・・・・・・・・・にく。」










そういうわけでなぜか真昼間から焼肉を焼いている。



「何で昼間に焼肉?!」

「祥子が肉食いたいっつったんじゃねーか。
焼肉嫌だったか?」

「嫌じゃないけど・・・普通もっと雰囲気あるところとか・・・・・・」


言いかけてやめる。

まるでこの男と雰囲気よくなりたいと言っているみたいじゃないか。



「俺かしこまった店とか苦手なんだよ」


「・・・何正直に言ってんのよ。
もっとカッコつけなさいよ」


「別に・・・。そういうのに慣れてんのがカッコイイとも思わねーし」

「・・・・・・」



ワガママを聞いてくれないわけじゃないのに、斜め上にばかり叶えてくれる。

調子が狂う――



「ウチだってお堅い店なんか好きじゃないし!」
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