有明先生と瑞穂さん
うつむき黙る有馬に口之津は必死に説得する。


「もちろん好きな方お前に選ばせるし・・・一緒に買えばもう片方つけたい時とか交換できるだろ?!
それにこれどっちもお前に似合いそうだし・・・

別に・・・

無理にとは・・・

言わねーけど・・・・・・」


早口だった声はだんだんとトーンを落とし、自信を無くしていく。


「やっぱ無理か・・・」


何も言っていないのにとうとう最後は自己完結してしまった。



「い、嫌とは言ってないじゃない」

「え」

「いいわよ別に!それ可愛いし!アンタにしてはいいデザイン選んだじゃない」

「それじゃあ・・・」

「片方しかお金出せないからね!
それにウチは薔薇の方がいいから!」

「・・・・・・!マジかっ!」




「よっしゃ!」とガッツポーズをして子供のように喜ぶ口之津の後ろでまたしてもグラサン店員が大声で笑った。



(いい加減黙れお前ー!)












「・・・アンタ貧乏って言ってたじゃない」

「俺が買いたいからいいんだよ」


結局自分の分は自分で出すつもりだったのに両方とも口之津が支払ってしまった。


「女に払わせられっか」

「あっ!また女って・・・!」

「やべ・・・違っ、いや!
女じゃなくても年下に払わせらんねーだろうが」

「・・・・・・」


納得いかない不満気な有馬の顔を見て口之津は苦笑する。




時刻はまだ夕方6時――



もう帰るのかと思っていた有馬だが黙って口之津の後ろをついて歩いて行けば、海沿いの道にあるベンチに連れてこられた。


人は少ないが、散歩やランニングをしている人、数個離れたベンチにはイチャつくカップル。



(何よ、こんなトコ・・・ウチらも同じカップルみたいじゃない)
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