剣舞
この演舞の絶大さを
彼は、忘れないと思う。


民衆から沸き上がる洪水のような拍手につつまれ、彼女はやがて演目を終える。


息を整えながら、流れるような礼をして、彼女は、ジルの表情を横目でみながら闇の中へ姿をけした。


覇王の満足気な表情をみて、ジルは安堵していた。

人々も、オリビアの舞への感動を口々にし、住居へ引き返す。


月が天の中央を通過する頃、ヴァイスも、ジルが用意した本日の私邸へと引き上げたのだった。

 
幾刻がすぎようと、
伝統的な舞を目の当たりにした興奮から醒めようがなかった。


朝まで、まだ時間があるのに、眠れそうにもなかった。


彼は、手探りで岩肌をたどり、頂きを目指す。
キリが薄くかかっていて、よく見えない。

あとすこしで、頂きにつく頃、彼は女に呼び止められ、目を見開いた。


「眠れないの?」


オリビア・・・だった。


「そんな格好でいると、風邪をひくわ。」

言葉を続けながら、手慣れた風に、ランタンに火を点す。


彼女は、天然の洞穴にいた。


 
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