【短編】ヒーロー
「そ……颯ちゃん?」
「何や?」
やっと出た言葉は名前だけ。
両手首を押さえられ、
近い颯ちゃんの顔にやっぱり目を逸らした。
「こ……この体勢って?」
真っ赤な顔で、目を颯ちゃんの首元に合わせ尋ねた。
『ん?』って首を傾げられても……困るよ。
「颯ちゃん?」
何度も名前を呼ぶ事を繰り返す私を見て、悪戯に微笑んだ。
……え?
これって、もしかして……意地悪なのかな?
驚く私を見て楽しんでるの?
だって、相手は、颯ちゃんだもん。
そう考えた方が……正しいよね?
何で?
何でこんな事するんだろう。
『面白いから』とか言われるのかな?
やっぱり、簡単に溢れる涙。
颯ちゃんの事になると涙が、簡単に出ちゃう。
一筋流れた涙を見て、緩んだ手首の手。
その手が私の流れた涙を拭った。