【短編】ヒーロー
「あ……こんばんは」
こいつ……今日、萌子と階段で話しとった男?
男の手にはサッカー部の鞄。
もしかして……
ツレの言うとった萌子狙ってる奴てこいつか?
「あの……馬場さんは?」
「あー……今着替えてるけど? 何か用?」
目も合わさず答えた。
「そうなんですか……で、あなたは馬場さんの?」
「……男やけど?」
「え? 馬場さん、彼氏いないって……本当ですか?」
驚いて聞き返すそいつなんか、気にもならんかった。
もしかしたらって思ったから【彼氏】や……とは言うてない。
【男】って答えたやろ?
やっぱり萌子が言ったんか?
彼氏おらんって。
「え? 柳君!?」
「あ……馬場さん」
ちょうどよく登場した萌子。
俺は、そいつに背を向けて、わざわざ萌子の耳元で、
『お前に用あるらしいで?』
そう言い残して、部屋に戻った。