【短編】ヒーロー



こいつ……本間に彼氏おれへんつもりやったんや。
わざとじゃなくて、本気で。


目の前の萌子は、頭がついて行かないって顔。



『あー! もうトロイなぁ』


「ごめんなさい……」



思わず言った俺の言葉に謝り俯く。


萌子の服の一箇所が濃く染みた。
それを慌てて隠すのが見えた。

泣いて……るんか?


また言いたい事、言わんと。
俺、お前がトロイから、我慢しとったのに。



もう限界やで?



立ち上がり、萌子を押し倒した。



「だから……言いたい事あるんなら言えっつってるやろが」

「え……」



オドオドする萌子は俺から視線を離してばっかり。

でも離してやらない。
萌子が悪いんやからな……。



「颯ちゃん?」

「何や?」



やっと萌子の口から出た言葉にすぐ返事をしたのに、

『こ……この体勢って?』

なんて、また目を逸らして言うから。



わざと首を傾げてみた。

今、何を思ってん?
何を考えてん?


そんな萌子の目から、涙が横に流れていく……。
それを、手で拭った。



「だから、言いたい事は口に出せっつってるやろ?」

「……っひ。颯ちゃん、何で……こんな事するの?」



まだ……わからんか?



「萌子……俺のもんやから?」





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