S的?彼氏の思うコト ~平畠 慎太郎side story~
「慎ちゃん。」

始めは空耳かと思うくらいの小さい声で、すみれさんが話しかけてきた。
そちらを向くと、すみれさんはいたって真剣な表情で話を続ける。

「人って、恋愛以外でもそうだけど、相手の事を知りたいって思った時点で、その人の事多かれ少なかれ気に入っていると思うの。」

目線を遠くに移しながら、すみれさんは顎に手を当てる。

「ましてや、慎ちゃんが『他人の気持ちを知りたい』って思うこと自体無いでしょ?」

俺は、すみれさんから目が離せないでいた。

「やっぱり、その時点で『好き』なんじゃないかな?」

すみれさんの言葉が、体中に染み渡る。

「でも、自分の中でグルグル考えたって、答えは出ないよ。だって他人は他人だもん。」

俺は、手に持ったままのビールがぬるくなっていくのも忘れ、すみれさんの話しに聞き入っていた。

「気持ちは、ちゃんと聞いて確かめないと。そして、自分の気持ちを伝えなきゃダメだよ。」

すみれさんは、そう言うと俺の顔を見つめた。

「そして、男ならチューの一つや二つかましてきなさい。」

俺は、空いた口が塞がらなかった。

真剣に聞いていたのに、なんだそのオチは。

すると、すみれさんがプッと噴出した。

「なっ!」

俺は、笑いを必死で堪えているすみれさんに、返す言葉が見つからなかった。

ひとしきり笑ったすみれさんは、息を整えると、俺に目線を据えた。

「行ってきたら?気になるんでしょ?あの子。」

安浦が出て行った襖を指差しながら言う。

俺は、その言葉が合図だったかの様に、廊下へ飛び出た。
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