S的？彼氏の思うコト ～平畠 慎太郎side story～

部屋を出るとき、アイツは鞄を持っていなかったから、おそらく帰ったんじゃない。
きっと、洗面所か何かだ。

俺は、お手洗いの中を調べる訳にもいかず、その奥を曲がった所の自動販売機が並ぶ区画を見てみた。
が、やっぱり居ない。

俺は、ネクタイを緩め、袖をまくった。
ビールのせいか、体が熱い。

すると、トイレの扉が開く音がした。
廊下の方を見ると、間違いない、安浦の後姿が見えた。

「おい。」

俺は、反射的にそう呼び止めた。
振り向いた安浦は、驚いた顔をしている。

「えっ？平畠さん？」

壁にもたれかかる俺に発する言葉を捜しているようだ。

「あの…。」

俺は、まどろっこしくなって安浦の腕を掴むと、自動販売機の並ぶ奥まった所へ引き寄せた。

安浦の不安そうな表情は消えない。
誰のせいでそんな表情をしているのか。
やはり、俺がいくら考えた所で何も答えは出てこない。

「平畠さん？」

その声に、俺はゆっくりと視線を安浦に合わせた。