S的？彼氏の思うコト ～平畠 慎太郎side story～

「お前は、どういうつもりだ？」

自分でも驚くぐらい、強い口調の言葉が出てきた。
理解出来ていない表情の安浦に、更に続ける。

「どういうつもりかと聞いている。」

俺は、努めて冷静になろうとした。
しかし、そう思えば思う程、言葉の棘は鋭さを増していく。

「あの、何の事ですか？」

言葉とは、こんなにも伝わらないものか？
俺は、自分への苛立ちを隠せないでいた。

「『何の事か』だと？」

そう言うと、俺は感情のまま安浦の両腕を取り、壁へ押し付けた。

「ロッカーでは斎藤とイチャついているし、さっきは右田さんと仲良さそうにしてたな？お前は誰にでも良い顔してるのか？」

俺は、思っていた事を口に出してぶつけた。
一瞬呆気に取られた表情をしたが、安浦は勢い良く首を振った。

「別に誰にでも良い顔してる訳じゃありません！」


「じゃあ、それ以上の関係なのか？」

支離滅裂な質問。
俺は、完璧に冷静さを失っている様だ。

「それ以上も何もありません！二人ともただの先輩です。斎藤さんのアレは何も無かったです！それに、右田さんは彩の事気に入っているみたいで、彼氏はいるのかと相談を受けていただけです！」

一気に捲くし立てる安浦の言葉を、頭の中でゆっくり整理する。
俺が思っていた事とは違う人物の名前が出てきて、一瞬思考が止まる。

「彩？渡辺の事か？」

俺の質問に、安浦は目尻を上げながら力強く答えた。

「そうです！」

安浦は、いつの間にかいつも通りの勝気な表情に戻っていた。
どうやら、俺が悶々と考えていた事は、全て空振りの様だ。

『他人の気持ちは、ちゃんと聞かないと分からない』

ふとすみれさんがさっき言っていた言葉が脳裏に浮かんだ。
全くその通りだ。

俺は、そう思うと、少し可笑しくなった。

何でこんなに単純な解決方法に、今まで気が付かなかったのだろうか？
どんなに心理学の本を読んだとしても、コイツの気持ちは分からない。

そう思いながら、不思議そうに俺を見る安浦に視線を落とすと、急に愛らしく思えてきた。