S的？彼氏の思うコト ～平畠 慎太郎side story～

唇が触れる刹那、グゥという音がして、動きを止めた。
目を開けると、見る見る安浦の顔が真っ赤になって行くのが分かった。
恥ずかしそうに身を縮める姿で、それがお腹の音であった事が分かった。

このいい雰囲気の中で、普通お腹を鳴らせるか？

そう思うと、急に可笑しくなって来た。

「お前は、本当に見てて飽きないな。」

生理現象を笑うのは如何なものかと思うが、何故このタイミング...俺は堪らず吹き出した。
堪えれば堪えるほど、可笑しくなって来る。

コイツの気持ちはハッキリとしないが、キスは拒否されない。
今は、それでも十分と思えるほど、色々考えて来た事が馬鹿らしく思えてきた。

「さっき買ったパンしか無いぞ？」

食べ物を与えようと、そう言って立ち上がると、キッチンに置いてあったパン屋の袋を掴んだ。

しかし、パンはバゲットだし、直ぐ食べられるモノが無かったことを思い出した。

「あ、クソ。おい、ちょっと来い。」

冷蔵庫から卵を取り出すと、やってきた安浦に卵を渡す。

「働かざるもの食うべからずだ。サンドイッチ作るから手伝え。」

一瞬呆気に取られたが、小さく頷き手を洗うと、慣れた手つきで卵をボウルに割り入れた。
どうやら、料理はそこそこ出来るようだ。

「スクランブルエッグにするから、そこの泡立て器で混ぜてくれ。」

そう言うと、俺はハムやキュウリ、レタスの下ごしらえをしようと包丁を持った。
注がれる視線に顔を上げると、それは俺の左手に向かっていた。

「左利きがそんなに珍しいか？」

安浦の目線に、生まれてこの方、何度も他人と繰り返してきた言葉を言う。
最近は、珍しくもないと思うのだが、小さい頃は大人に良くそう言われていた。

安浦は、その言葉に何故か嬉しそうに微笑んでいる。

本当に、変わったヤツだ。