ぼくのピペット
少年はゆっくり近付いてくると、ポケットから何かを取り出した。
「これ、お姉さんのだよね?」
小学生にしては大人びた口調でそう言うと、少年は取り出した物を掲げてみせた。
少年の手の中にあった物は携帯電話だった。
黒と紫の揚羽蝶のシールが貼ってある白いボディに、小さなくまのストラップが一つぶら下がっている。
女子高生にしては飾りけのない携帯。
それは間違いなく私の物だった。
いつ落としたんだろう?
「ありがとう」
そう言って私がそれを受け取ると、少年はホッとしたような表情を見せたのち、去って行く。
私もまた、部屋に入ろうとした。
が、ふと疑問が湧き、少年に訊いてみた。
「なんでこの携帯が私の物だってわかったの?」
少年は愛嬌のある笑みを見せると、
「りょうにぃに頼まれたんだ」
と言った。