知らない夜
ふと、かけられた声に戸惑いながら振り向く。そこには隣に住んでいるお姉さんがたっていた。昔はよく遊んでもらっていて、去年から山梨の大学に通うことになったと母が言っていた。ひとり暮らしなどはせず、この街から2時間かけて通学しているとも。今ちょうど帰りなのか、家まで一緒に歩くことになる。

空を見上げて、やっぱり月が綺麗だと感じる。怖い夜が美しいと感じる。お姉さんが山梨は星が綺麗だと教えてくれた。
綺麗じゃない星はあるのかな。なんて、ぼんやりと感じる。駅から遠ざかるにつれて街灯の間隔は遠ざかる。道は徐々に暗さを増す。
並木の銀杏が少し色づいて、またこの道も銀杏臭くなるのかと去年を思い出す。

ふと、お姉さんが空を見上げて、雪はまだ降らないよね。と呟いた。
「私、失恋したんだ。去年なんだけどね。いまだに引き摺ってるの。」
「お姉さんが告白したの?」
「うん。今雪降ってるよ。窓開けてみて。ってメールして窓開けたら手をふって告白した。駄目だったんだけどね。」
「なんでですか?」
「相手にはもう付き合ってるひとがいたの。ちょうど私が告白する一週間前に付き合い始めたんだって。あかねちゃんも、好きなひとがいるなら待ったりしてたら逃げられちゃうかもよ?」
と、とても悲しい顔を見せた。
私は思い立つ。
「お姉さんごめん、先に帰ってて。」
「え、どこに行くの?」
「自動販売機の上に乗ってくる。」
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