知らない夜

駆け出した私に赤いマフラーを手渡してくれた。「あげる。いってらっしゃい。」
手をふって、私は彼の家へと向かった。
誰もいない道を小走りでいく。この世界には私しかいないんじゃないか、と思えるような静かさで、まるで夢の中のようで。
幸い、距離はそんなになくてすぐに着いた。

とりあえず、メールをする。雪はさすがに降っていないから、月が綺麗だよ。って。
返事はあったが窓はあかない。勉強しているらしい。
確か彼の部屋はあそこだったかな。暖房の換気扇がぐるぐる回っている。二階のあの位置にはさすがに届かないし、石を投げるわけにもいかないし。
ちょうど、暖房の換気扇の下の位置に自動販売機があった。まさか、本当に乗ることになるとは、と思いながらジャンプして這い上がる。
ポケットからホットレモンとホッカイロを取り出す。
ホッカイロを破ってなかの黒い砂をホットレモンのなかに注いだ。ぶくぶくと音がして水蒸気がでる。それをマフラーで換気扇の下に縛っておく。
水蒸気が次々と換気扇に吸い込まれた。
その間に自動販売機から降りる。あわただしく窓があく。部屋から白い霧が少し出ていた。

手をふるとこちらに気が付いて、ちょっと待ってて。と言われた。バタバタと玄関から彼がサンダルを履いて出てくる。
面と向かって告白なんて出来ないよ。なんでこううまくいかないかな。と嘆きながら、言葉につまる。
ポケットに入れたてがチョコを取り出した。
なんとか精一杯「これ、食べて。」と声を出す。
口に含んだ彼が変な顔をする。私もひとつ食べてみた、特製のチョコのほしうめサンドを。
甘酸っぱいとは言えないけれど、とりあえず最後のひとこと。

「今の私の気持ち。ねえ、知ってる?恋って甘酸っぱいんだよ。」




これが私がたどり着いた苦くも甘酸っぱい夜。私の夜の物語。
知らないものを集めて継ぎ接ぎ合わせたような、不器用な経験。探すだけでは見つからない、調べるだけでは見当たらない。
私しか知らない夜。
料理にはいつも文句を言われるけれど、まあ仲良くやれています。

***
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