知らない夜

私しか

***

コンビニから出たところで、ちょうど正面からスーツを来たひとたちがぞろぞろと出て来た。
皆顔が赤くて、お酒臭い。
そのなかのひとり、小太りのグレーのスーツを来たおじさんに声をかけられる。

「お嬢ちゃんどうしたの、そんな格好で。」
そのひとことで他の人たちも私の方を向いた。家出したなんて、堂々と言えるはずもなく答えられないでいると、ホッカイロを手渡される。
「家出かい?」
なにもいっていないのに、何故こうもわかるのかな。他のおじさん達が笑いながら若いなあ。といっているのが聞こえた。
ふと、思ったことを聞いてみる。
「お酒って美味しいですか?」
「気になるのかい?まあ、おじさんはね、美味しいからお酒を飲むわけじゃないよ。美味しいお酒を飲む余裕もないしね。」周りから笑いが起こる。なに、言ってるんですか部長。なんて声が聞こえる。
「こうして、皆でお酒を飲むのが楽しいんだよ。お酒は味なんかよりもどう楽しく酔うかが大切だね。」
部長が語り始めたぞー。なんて、また皆が笑っていた。秋にしては寒いこの気温のなか、顔を真っ赤にして、スーツを着ている姿がなんとも不思議だった。
「そのうちわかるよ。」と、電気が消えそうに点滅している自動販売機を指す。「酔うと、自動販売機の上に乗って告白しちまうんだよお嬢ちゃんも気を付けて。」とよく意味のわからないことを言われて、またひとつホッカイロを渡された。
おじさん達がぞろぞろと駅に向かう。それ今の嫁の話ですよねー。と言っているのが聞こえた。

父がお酒を飲む姿がパッと浮かぶ。
父は何の為に飲んでいるのか。何故だかああいう姿を見るとお酒と夜には密接な関係がある気がする。母も昼間っからお酒?とよく父に言っているし。

家庭を思い出して、なんだか一気に寂しさに襲われる。まだ家出してから1時間くらいしかたっていないのに。「あかねちゃん?」


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