しゃぼん玉。
「………なに?」

意味の分からない問いかけに、私は思わず振り向いた。

「なにとは何?」

開けっ放しの口に少しイラついて、同じことを聞いてやった。

「……人魚さん。」

別の声が聞こえた。
小さくて、少し高い声。

「兄ちゃん、人魚さんだよっ。
人魚さん、ホントにいたんだよ!」

小さな生き物は嬉しそうにこっちに向かって走ってくる。
波は高くないが、此処は滑りやすいと思う。
それに、岩場だと言ってもすぐ下は水が深い。

「落ちるよ。」

落ちても関係ないはずなのに、つい声をかけてしまう。

「逃げないから、歩きな。」

そう言うと、やっと小さな生き物はゆっくりと歩きだした。
あと少し。

…もう少し。

……ほら、もうすぐ。

………あと一歩。

やっと小さな生き物は私に辿り着いた。

「何か用があるの?
お前はホントに小さいな。」

「ぼく3つ。
人魚さんはいくつ?」

小さな生き物は、私の隣にちょこんと座るといきなり質問してきた。

「いくつとは、歳のことか?」

小さな生き物は笑顔で頷く。

「私は今日で16だ。」

するといつの間に来ていたのか、意味の分からない問いかけをしてきた生き物が、何故か小さな生き物とは逆の隣に座っていた。

「今日が誕生日なのか?」

「……何か不都合でも?」

私は意味の分からない生き物は嫌いだ。
だからこの生き物も嫌いなはずなんだ。

「おめでと。」

「何か祝い事でもあったのか?」

「名前は?」

この生き物は私の話を聞く気がないのだろうか。

「………ミル。
お前は?」

「湊。」

ミナト?

「お前の名前は人間みたいだな。」

私は人魚以外の生き物は、海に住む生き物以外見たことがなかった。

「……俺もこいつも人間だけど。」

「…………………………………………………え゙。」

この小さな生き物も人間。
今話している生き物も人間。
信じられなかった。

「人間……。
そうか…、これが人間という生き物なんだな。」
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