しゃぼん玉。
母様が愛した方と同じ生き物。

「ミナト、漢字はあるのか?
人間には名前に漢字があると聞く。」

「人魚に漢字の知識があるのか?」

なめるなよ。
バカにするな。

「他の者にはないだろうが、私は少し漢字に関心がある。」

1人、勉強したんだ。
人目につかないところで、一生懸命練習した。
外国語とやらは興味がなかったが、日本語程度ならば並程度ならできる。

「〝さんずい〟に奏でるの〝かな〟だ。」

〝さんずい〟というのは、水を表すと聞いた気がする。

「私にも一応漢字がある。
〝美しい流れ〟と書いてミル。」

昔、人間になりたいと魔女に言えば、人間はムリだが漢字をやると言われた。
その時にもらったものだと湊に言えば、湊は良い名だと言ってくれた。

「ありがとう。」

心からそう思った。
だから口に出してみた。

「魔女が昔、教えてくれた。
嬉しいと思ったならお礼を言えって。」

そう。
何故かあの魔女は偉そうだった。
偉そうだったけど、大切なことを私に教えてくれた。

「魔女は、親なのか?」

親ではない。
血の繋がりもなければ、友達でもない。

「不思議な関係だ。」

それが居心地良かった。
だから時間をみつけては魔女のところへ行った。
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