伝えておけばよかった(短編)
「なんにもいわなくて、いいから。でも、もう一度キスして」

「・・・」



 ぎゅっと芽生を抱きしめた。

 考えられない。

 おれの、まだ短いけど、すぎてきた日々の中には必ず、芽生がいて、いなくなることなんて・・・思ったことなくて・・・。

 でも、間違いなく現実なんだろう。

 おれたちは、幼くて、親に頼らねば生きていけない子供で、その現実に逆らう力を持っていなかった。



 そっと、ぎこちなく、触れた唇。

 数秒で離した、幼い幼いくちづけ。 



「・・・ありがとう。忘れない。・・・だって、私も、遼以外とキスしたことないから」

「おれは・・・」



 近すぎて意識したことも、特別に考えたこともなかった。

 でも、いなくなる現実をしって、気がつき始めたことがある。



「おれも」



 すこしずつ、見えだした気持ちを形にして、言葉に乗せようとした。

 風が吹いて、うす雲に隠れていた満月が顔を出し、二人を照らす。

 

 ・・・伝えなくちゃ。

 


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