伝えておけばよかった(短編)
「おれは、」



 そのとき、暗さに目が慣れていたおれたちを、まばゆいライトが照らした。

 ブレーキ音。

 急いでドアから降りていく人影。



「芽生! 遼くん!」


 降りてきたのは、芽生の母さんだった。



 転勤はいや、一緒にいかないと渋る芽生は、母親にしかられ、家を飛び出したのだという。

 家出してやる! という書置きを残して。

 ウサギのように真っ赤な目をして、おれの家にやってきた芽生は、そのけんかの後だったのだろう。

 すぐに帰ってくるとおもったおばさんは何時間立っても帰ってこない芽生を心配して、おれの家に来て、それからおれもいないことをしったんだ。

 両家は大騒ぎになって、心当たりを車で探して、ようやくここにたどり着いたのだという。


「芽生、帰りましょう」



 しかることなく、優しく促された言葉に、芽生はうなずいて、立ち上がった。



 

 
 
 
< 29 / 32 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop