課長さんはイジワル
第106話 最後のお願い
その後、課長からメールが来なくなった。

電話すらない。

あっけなさ過ぎる最後。

課長に彼女引退宣言をしてから早3日。

腫れた目を氷で冷やし、がんばって何とか仕事には出ていた。


ちなみに佐久間主任は、噴水が原因なのかあの日からずっと風邪で会社を休んでいた。

そして、4日目の今日。

誰もいない朝のトレーディングルームでいつものように新聞を配っていると、背後からポンと軽く肩を叩かれる。

「おはよう」

佐久間主任が肩にかけていたバッグを机の上に下ろす。

「お、お、おはようございます。大丈夫ですか?」

「ああ。……どうした?目が腫れてる」

およよ。

いかん。

思わず目線を逸らして、さり気なく後ずさる。

「花粉症なんです」

「へぇ。そうか、お大事に」

鋭い佐久間主任の視線を避けるように、慌てて新聞を配りに大股で歩き出す。

でも運悪くフロアーのカーペットに足を取られてつんのめったところを、佐久間主任に腕を掴まれ助けられる。


「ありがとうございました」

「悪かったよ。杉原君が例の奥田取締役のNY行きのいきさつを知らなかったとは夢にも思わなかったんだ」

「……」

「今夜、一緒に食事しよう」

「それは……」

私がちゅうちょしていると、佐久間主任が掴んでいた私の腕を離し、ポンと軽く叩いた。

「こんなこと頼むのは最後だよ。NYに行く前のね」




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