課長さんはイジワル
第11話 鬼健在。
吉田さんに抱え込まれるようにして、課長が私の隣に乗せられる。

心なしか、課長の顔が、一層、青ざめたような気がする。

「課長、大丈夫ですか?本当にすみませんでした」

ぶすっとした課長の顔に焦り、急いで車を発進させる。

ガクンと体がつんのめる。

失敗。

縁石(えんせき)に乗り上げちゃった。

心なしか、見送る吉田さんも飛び退き青ざめているような気がする。

「す~ぎ~は~ら~」

さっきまで青鬼だった課長が赤鬼に変貌している。

「今は泣くな!謝るな!考えるな!とにかく運転に集中しろ!!」

「はいっ!!」

「涙を拭いて落ち着け!」

「はいっっっ!!」


そうだ。
とにかく、落ち着こう。

ワイパーがカクカク動く。

「ワイパーで涙が拭けるか!バカヤロー!!」
「す、すみません!!」

怒鳴られつつも、課長のいつもの罵声にほっとする。


それから、車のナビを頼りに、慎重に車を運転する。

辛そうな課長が心配で何度もちら見してしまう。

「課長、病院に行かなくて大丈夫ですか?」

「余計な心配するな!運転集中!!」

「はい!」

袖で涙を拭う私の頭を、呆れ顔の課長が優しくポンポンと叩く。

「俺は大丈夫。そんなに心配するな」



課長が優しい……

鬼のくせに……



やがて、課長はよほど疲れてたのか、しばらくすると、すぅっと寝息を立て始める。

へぇ、意外……

寝顔がなんか可愛い……

寝ている時は、鬼も人間に戻るんだ。


そして、目線を前に戻して、目をみはる。


ど、どぉしよぉぉぉぉぉ。

か、かちょぉぉぉぉぉぉ。


ピンポーン♪


「まもなく、ETC料金所です。このままお進み下さい」


抑揚のないウグイス嬢のナイスなアドバイスに、隣で寝ていたはずの課長がガバッと飛び起きる。









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