課長さんはイジワル
第110話 NYへの旅立ち
「怒らない。怒らない」
佐久間主任がクシャクシャの笑顔で「ま、そんなところも可愛いんだけどね」とポツリとこぼす。
からかわれている!
「ひどいですよ」
膨れながら、残っているフグ刺しにプスリと箸で怒りのトドメを刺す。
そんな私を優しい眼差しで見つめる佐久間主任と目が合い、フグが喉に張り付き、むせてしまう。
「大丈夫か?これ飲めよ」
差し出された水を流し込みつつ、また不意に絡んでしまった視線を慌てて振り解く。
「とっ、ところで佐久間主任はどうしてNYに行くことにしたんですか?」
「いきなり本題なんだな」
「だって、突然で……」
「ま、専務からの是非にとのテコ入れがあったって言うのもあるけど……」
どへぇ~~!!
専務取締役からの直々のお話なの?!
びっくりして腰を抜かしている私の目の前に置かれたコップにビールを注ぎながら、佐久間主任は頬杖を付く。
「俺はずっと奥田さんの後を追い駆けて来た。だから、NYに行かないことで袂(たもと)を分かちたかったんだ。だけど、ピンチになった時とか、いつもこう思ってしまうんだ。『これが奥田さんだったら、どうするだろう』『どう考えるだろう』って。呪縛のようにそこから抜けられないんだ」
「佐久間主任……」
「いい加減、超えたいんだ、奥田さんを。
仕事でも……恋愛でも」
一瞬の沈黙と佐久間主任の熱い眼差しにごくりと唾を飲む。
この沈黙、まずい。
やばいですってば。
じぃぃぃっと見つめる佐久間主任の熱い瞳を振り切るように、なんとか会話を振り絞る。
「さっ、佐久間主任はNYにはいつ発たれるんですか?」
思わず声が上ずってしまう。
「え?ああ。早ければ、来週末には」
「そんなに早く……」
「寂しい?」
寂しくないと言えば、それは嘘だ。
入社して以来、あのトレーディングルームの3人掛けのブースには、左には課長が、右には佐久間主任がいてくれた。
緊張で怖くて震えあがっていたあの頃。
でも、2人はずっと守ってくれていた。
色々なことを新人の私に教えてくれた。
だけど、奥田課長はNYに行ってしまい、今また、佐久間主任まで……。
私は零れそうになる涙をぐっと堪えると、笑顔で顔を上げる。
「そんなことありませんよ。私、応援してますから!
故郷に錦とかガンガン飾っちゃって下さい」
寂しい気持ちを笑顔の下に隠して、明るい声でエールを送る。
佐久間主任がクシャクシャの笑顔で「ま、そんなところも可愛いんだけどね」とポツリとこぼす。
からかわれている!
「ひどいですよ」
膨れながら、残っているフグ刺しにプスリと箸で怒りのトドメを刺す。
そんな私を優しい眼差しで見つめる佐久間主任と目が合い、フグが喉に張り付き、むせてしまう。
「大丈夫か?これ飲めよ」
差し出された水を流し込みつつ、また不意に絡んでしまった視線を慌てて振り解く。
「とっ、ところで佐久間主任はどうしてNYに行くことにしたんですか?」
「いきなり本題なんだな」
「だって、突然で……」
「ま、専務からの是非にとのテコ入れがあったって言うのもあるけど……」
どへぇ~~!!
専務取締役からの直々のお話なの?!
びっくりして腰を抜かしている私の目の前に置かれたコップにビールを注ぎながら、佐久間主任は頬杖を付く。
「俺はずっと奥田さんの後を追い駆けて来た。だから、NYに行かないことで袂(たもと)を分かちたかったんだ。だけど、ピンチになった時とか、いつもこう思ってしまうんだ。『これが奥田さんだったら、どうするだろう』『どう考えるだろう』って。呪縛のようにそこから抜けられないんだ」
「佐久間主任……」
「いい加減、超えたいんだ、奥田さんを。
仕事でも……恋愛でも」
一瞬の沈黙と佐久間主任の熱い眼差しにごくりと唾を飲む。
この沈黙、まずい。
やばいですってば。
じぃぃぃっと見つめる佐久間主任の熱い瞳を振り切るように、なんとか会話を振り絞る。
「さっ、佐久間主任はNYにはいつ発たれるんですか?」
思わず声が上ずってしまう。
「え?ああ。早ければ、来週末には」
「そんなに早く……」
「寂しい?」
寂しくないと言えば、それは嘘だ。
入社して以来、あのトレーディングルームの3人掛けのブースには、左には課長が、右には佐久間主任がいてくれた。
緊張で怖くて震えあがっていたあの頃。
でも、2人はずっと守ってくれていた。
色々なことを新人の私に教えてくれた。
だけど、奥田課長はNYに行ってしまい、今また、佐久間主任まで……。
私は零れそうになる涙をぐっと堪えると、笑顔で顔を上げる。
「そんなことありませんよ。私、応援してますから!
故郷に錦とかガンガン飾っちゃって下さい」
寂しい気持ちを笑顔の下に隠して、明るい声でエールを送る。