王子とさみしがりやの魔女(仮)
PLOROGUE.満月の夜
―――――満月の夜だった。
がさがさと音を立てて、もぞもぞと動く影がひとつ、ふたつ―――よっつ。
「着かないじゃないか。城出たのは朝なのに」
「そう申されましても」
「ったく……父上、大丈夫だろうか」
月下にきらきらと輝く金色の髪、闇の中では分かりづらいが蒼い瞳。
加えて、目鼻立ちの整った一目で見惚れてしまいそうな顔立ちの青年は、綺麗に整った眉を寄せて心配そうに呟いた。
「医師団が付いています」
「あてにならん。どうやってもダメだったじゃないか」
「ですからこうして、私と兵を二人連れてむかっているのでしょう」
「………老師め。本当にいるのか?………魔女、など」
「いますよ。ひっそりと暮らしているはずです。他の国ならば殺処分でしょうが、我らが主は寛容な御方。国の端、迷ったら命は無いと言われる通称゙魔窟の森゙とはいえ、居住を認めておられるのですから」
「分かっている!ならなぜ小屋はおろか木しか見えない―――……」
青年の隣で、訥々と語っていた茶髪に青い瞳の、青年よりいくらか年上であろう彼の言葉に苛立ちが増したのか、思わず声を荒げた。
が、言葉を途中で止めてしまう。
「どうされました?」
「見ろ。――――あれだ」
そういって青年が視線で指した先には、煙突から細く煙を出す小さな小屋だった。