鳴かぬ蛍が身を焦がす
巡り合い
後輩の登場
街の中にあるとある美容院。
「本当にいいの?」
そう不安げに聞き返す1人の美容師。
その前にはロングヘアーの若い女性が椅子に座り、じっと鏡の中の自分を見つめていた。
「いいです。もう伸ばしていても意味無いから」
‘響子は長い髪が似合ってる’
‘絶対に切るなよ――’
瞼の裏に記憶された想い人の一言。
でももうそんなのは過去の恋愛になってしまった。
‘――ゴメン。カミさんに子供が’
いつか終わると思っていた恋。
妻ある人と付き合った以上、長くは続かないと割り切っていたのに……。
「バッサリお願いします」
さようなら。
私の一世一代の恋――。
桜が一斉に咲き誇る四月。
学校の校庭に並んだ桜並木が春の訪れを告げる。
「響子~」
名前を呼ばれ私が後ろに振り返ると、
パタパタと小走りで親友が近づいてきた。
「随分バッサリ切ったね!」
終業式まで胸の位置まであったロングヘアーが、始業式にはショートカットになっているのだから親友だって驚きを隠せないだろう。
「もしかして……失恋とか?」
何気ない言葉に私の心臓がドキッ!と大きく跳びはねる。
「まぁ、四月だし心機一転って感じかな」
動揺した表情を作り笑いうまく隠しつつ、私は校庭の門を潜った。
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