鳴かぬ蛍が身を焦がす
授業が終わった放課後、
私は図書室で一人好きな本を読んでいた。
好きな作家が幅広く揃っているせいか、暇さえあれば入り浸るようにここへ通っている。
静寂な空気に包まれたこの空間も気にいっているからだ。
「次、次……」
小説を読破した私は次の巻を取る為に席から立ち上がると、本棚へ向かう。
だが、自分よりはるかに高い本棚の上段に読みたい本があった。
普段ならあるはずの脚立も今日に限って無い。
「うーっ」
短い腕を背伸びして伸ばしても取れるはずもなく、
一人うめき声を出しながら苦戦していると、
「!」
背後から長い腕が見えて、欲しかった本を意図も簡単に取り出したのだ。
「はい、先輩」
その声に振り向くと、
そこにはニッコリ笑って私の背後に立つ晃の姿があった。
「ありがと……」
本を手渡しで受け取った私の頬は無意識に赤く染まっていた。
最近晃の事をよく考えるせいか、つい意識してしまう。
「……昔からその作家読んでますよね。アガサクリスティー」
そう言って胸に抱えた本を指の腹でおもむろになぞる。
しかし中学の図書室には無く、部活でも一度も読んだ事が無い。
何故私が読んでいる事を知っているのだろうか。