鳴かぬ蛍が身を焦がす
目をゆっくり開けた時、
晃の唇は私の額にあった。
そして唇は離れ、目を見開いて驚く私をすぐ近くで眺める晃がこう呟いた。
「そんな可愛い顔されたら、理性吹っ飛んじゃいそう」
その言葉に顔から火が出そうなほど恥ずかしくなった。
理性が吹っ飛ぶって……!
「…俺、そろそろ帰りますね」
晃は最後に私の瞼へキスを落とすと、何事もなかったかのように図書室を後にしたのだった。
「……」
たった数分の出来事に一体何が起こったのかわからない私。
その場に立ち尽くし胸に抱える本をギュッと抱きしめても、
心臓の激しい鼓動は一向に収まる気配は無かった。
――年下の彼に翻弄されるなんて。
こんな胸のドキドキは今まで感じた事が無い。
全身が熱っぽくて今すぐにもとろけてしまいそうだ。
――!!
ブレザーに入った携帯が振動する。
長い振動に携帯を取り出したのは、誰もいない廊下を一人歩く晃だ。
「もしもし」
『――晃か?』
電話の相手の声を聞いた瞬間、
晃の目つきが突然豹変し、睨むような険しい表情へ変わったのだった。