鳴かぬ蛍が身を焦がす

「私、もう帰るから」

そう笑って言った私が本棚に行こうとした時、
突然晃に手首を掴まれ行く手を阻まれた。

「晃君…!?」

「明日行くんですか?先生に会いに」

その瞬間、ドクンッ!と息が止まる思いをした。

「この前先生から電話がきました。先輩の事で」

――え?

‘響子とやり直したいんだ。晃はどう思うか?’

「その日、学校終わりに先生と直接会って相談を受けました。お前の意見が聞きたいって」

やり直したい?

私と――。

思ってもみなかった相手の気持ちに私は目を見開いて驚いた。

「もし明日来なければ、それが響子の気持ちなんだって受け止めるって言ってましたよ?先輩はどうするつもりなんですか?」

晃の怖いぐらい真剣な目つき。

手首を掴む腕にも力が入っているせいか僅かに痛い。

「……突然そんな事聞かされて、行くか行かないかなんて……わかんないよ」

「悩んでるのはまだ先生への気持ちが残っているから?」

「そういう事じゃなくて……いっ!」

「じゃ何で迷ってるんです?」

私を問い詰める晃の声色がどんどん強くなる。

そして掴む力も。
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