鳴かぬ蛍が身を焦がす
「痛い……っ!」
私が思わずそう口走った瞬間――!
ガターンッ!
座っていた椅子が倒れ、持っていた本が床へ落ちる。
「……」
あまりにも一瞬の出来事に何が起きたのかさえわからない私。
背中越しに感じる堅い感覚。
そして自分の両手首を羽交い締めにされ、
目線の先には晃が神妙な面持ち。
その時漸く今の状況が掴めた。
私は机の上に押し倒されたのだ。
「ちょっ、離してよ…。誰かが来たら……」
「大丈夫です。さっき内側から鍵かけましたから。それにこの時間じゃ教師以外誰もいませんよ」
冷や汗をかいて大きく動揺する私に、
晃は真顔で淡々と言葉を返す。
「……行かないで下さい。あんな奴の所になんか」
そしてじっと見つめて必死に訴えてきた。
「アイツの何処がいいんです?先輩と散々遊んでる癖に、家庭では優しい旦那の顔してる。その裏で、先輩がどれだけ悩んで苦しんでいるかなんてアイツは何も知らないんだ」
それはまるで自分の気持ちを代弁するかのような口ぶり。
いかにもその光景を見ていたかのような……。
「俺、知ってるんですよ?先輩が誰もいない図書室で一人泣いてた事」