鳴かぬ蛍が身を焦がす

図星の私は思わず言葉を失った。

晃の言った通り、よく私は部活が終わった後、
部員も誰もいない図書室で泣いていた。

恵まれない環境や境遇での恋愛に時々どうしても苦しくなって、
泣かずにはいられなかったのだ。

「見てたの……?」

「見てましたよ。ずっと。でも俺なんかが声をかけても先輩は何とも思わない。アイツがいて初めて先輩は笑ってくれるんだなって感じてたから、ずっともどかしかった」

当時の光景を悔やむように、晃は唇を噛んだ。

「俺だったら絶対に悲しませる事なんか無いのに、嫌な思いも絶対させないのにって」

晃の目に映る私の姿はどんなものだったのだろう。

「……先輩は俺から見て雲の上の人だったんです。だからあの時は本当に嬉しかった」

私があの時?と聞き返すと、
先輩は覚えていますか?と淋しげに笑った。

「部活の時、一度だけ先輩にシャーペンを借りた時の事」




‘先輩。ちょっと書くもの無いんでシャーペン、借りてもいいですか?’

‘いいよ’




「本当はあの時シャーペン持ってたんです。わざと先輩に借りるフリをしたんです」

「何でそんな事を……?」

自分の記憶に無い過去の光景は、
晃にとってとても鮮やかな思い出になっていた。
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