鳴かぬ蛍が身を焦がす

その声に晃は扉の前で足を止めてくれる。

だがその場に立ち尽くしたまま私の方へ向こうとしない。

不安な表情を隠せない私は振り返ってくれるのをひたすら待った。

数秒後、おもむろに後ろへ振り返った晃は、
私に満面の笑みを見せてくれた。

だが――。

「せいぜい先生と幸せになって下さい」

その笑顔からは全く予想もしない言葉に一瞬で血の気が引く私。

晃はそんな私を残し図書室を出たのだった。









次の日。

私は街のとある店にいた。

「来てくれて嬉しいよ」

そう言って嬉しそうに笑うのは先生だ。

向かい側に座る私は浮かない顔をして俯いたまま。

「髪、切ったんだね。一瞬わからなかったよ」

‘長い方より短い方が可愛いですよ’

晃の笑った顔。

「響子も高二だもんな」

‘先輩を追いかけてここまで来ました’

晃との再会。

「離れてわかったけど……」

‘そんな顔されたら理性吹っ飛んじゃいそう’

晃とくれたキス。

今思い返すのは晃との甘くて温かい思い出ばかり。

失って始めて気づくその存在。

「やっぱり俺響子の事好き――」

「ごめんなさい」

自分の思いはもうここには無い。
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