鳴かぬ蛍が身を焦がす
‘先輩、鳴かぬ蛍が身を焦がすっていうことわざ知ってます?’
‘ん~、私は知らないなぁ’
‘俺好きなんですよ、その言葉。今の俺の状況にそっくりだから’
数週間前に交わしたたわいもない会話。
晃が少し辛そうに笑った横顔が印象的だった。
私は慌てて起き上がり机の上にある携帯を取りに行った。
そして言葉の意味を調べる為に急いでネットに繋げた。
「鳴かぬ、鳴かぬ……」
その言葉だけで何万件もヒットした。
その中で意味が載っているサイトを見つけるやいなや、急いでアクセスした。
‘口に出して言うよりも、じっと黙っていることのほうが、心の中の思いは痛切なのだということ’
「……」
私は絶句した。
もしかしたら、
私より何倍も苦しい体験をしてたのかもしれない。
心の中で気持ちを閉じ込めてきた分、痛いほど思いを噛み締めてきたんじゃないだろうか。
―――何で早く彼の気持ちを組み取ってあげなかったんだろう。
そうすればこんなすれ違いなかった。
先生の事で悩む事も、晃に辛い思いをさせる事も無かったんだ。
「……っ」
机に落ちる涙の雫。
自分のふがいなさで大切な人を失った。
泣いても時間は戻せないとわかっていても、
溢れ出す涙を止める術を持ち合わせていなかった。