鳴かぬ蛍が身を焦がす
五月の爽やかな時期が過ぎ、あっという間に梅雨の季節になった。
じめじめした湿気のある空気としとしとと降る雨。
傘無しでは何処も行けない毎日は気分まで沈んでしまいそうだ。
とある日曜日、私は親友と遊びに出かけた。
「……」
その帰り、一人地元の駅ビルでたまたま買い物をしていると、見覚えのある姿を見つけた。
目に焼き付いた忘れもしない後ろ姿。
そして一瞬だけ見えた横顔。
「晃君……!」
たくさんの人で混雑しているのに、晃の姿だけは目にはっきりと視界に入ってきた。
ドクン、ドクン、ドクンッ……!
高鳴る鼓動を抑える事も忘れ、
私は無意識に走り出し、数メール離れた晃を夢中で追いかけた。
そして――。
「晃君!」
そう呼びかけた瞬間、驚く様子で相手は振り返った。
「……先輩」
たくさんの人で行き交う駅ビルの中。
そこで私と晃は三度の再会を果たした。
ハァハァと肩で息をする私を、晃は凝視する。
その瞬間、お待たせと晃に一人の若い女性が近寄ってきた。
同年齢より少し高めで少し派手めな格好。
私とは正反対の女性だ。
「悪いけど、今日はもう帰ってくれる?」
「えー、さっき会ったばっかじゃん」
「頼むから」
晃の言葉にぶすくれながらも、
今度絶対埋め合わせしてよね!と言い残し女性は去って行った。