鳴かぬ蛍が身を焦がす

風で閉じた目をゆっくり開けて前を見つめる私。

桜吹雪の中に一人佇む男子生徒。

だが桜で体の一部分しか見えない。

しかし風が漸く収まってきてやっとその全貌が明らかになった。

「……先輩」

そう言って笑いながらゆっくり私達に近寄ってきたのは、
見覚えのある人物だった。

「晃……くん?」

「お久しぶりです」

一四八センチのチビな私と比べ、頭二つ分も高い彼。

私は思わず空を見上げるように頭をあげ、唖然としてしまった。

「そんな驚いた顔しないで下さいよ」

フッと目を細めて笑う晃。

私は目を丸くし口を開けたまま眺める始末。

無理もない。

彼と会ったのは自分の卒業式が最後で、
まさかこうやって再び出会うなど予想もしてなかったのだから。

「ちょっ響子!彼誰よ!?」

隣にいた親友が頬を染め嬉しそう荒げる声で、私は漸く我に返った。

「えっと、彼は桐島晃君。私の中学の時の後輩なの」

そう私が紹介すると、
晃はニッコリ笑って親友にどうもと軽く頭を下げた。

「晃君もここに入ったんだね。全然知らなかった」

中学時代よりもかなり身長が伸びて、
髪型も昔のショートではなく長めの無造作ヘアー。

まさに高校デビューといったところか。
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