鳴かぬ蛍が身を焦がす
「晃君ならもっと頭のいいところ行けたんじゃない?」
「そんな事無いですよ」
彼が秀才なのは中学時代から有名な話だった。
中の下状態のこんな高校じゃレベルが合わないだろうに。
「どうしてもここに来たかったんです」
優しく微笑む表情に私と親友は思わず顔を赤くした。
「まさか好きな人がいるとか~?」
にやけ顔で冗談混じりに呟いた親友の言葉。
「――そのまさかです」
晃は口元を緩めたまま、私を見下ろしゆっくりと顔を近づいてきて……。
「先輩に会いたくてここまで来ました」
目の鼻の先にある晃の顔。
その近さについ瞬きをする事も忘れてしまう私。
「貴方の事がずっと昔から好きでした」
―――ビュッ!
再び吹いた強い風。
桜の花びら達が校庭中に舞い散る。
そのど真ん中で私と晃は唇を重ねていた。
突然恋の嵐が訪れている事も知らずに。
学食に広がる私を見つめる痛い視線。
ヒソヒソと聞こえてくるのはきっと朝の大事件の事だろう。
「友達に悪い事しちゃいましたね」
悪びれた様子もなく私の隣で笑いながら日替わり定食を食べるのは、
事件を巻き起こした張本人だ。