プリズム ‐そしてドラム缶の中で考えたこと-
広場に戻ると信じられない事が起こっていた。

ドラム缶が道路の脇に転がされていた。
毛布が無くなり、家から持って来ていた、本や、写真が奪われていた。
白いノート(外見が白いのだ、実際のノートには中身が沢山書き込んである。未来の自分との会話をする為にこれだけは守らなくてはならないのだ。しかしながら白いノートは何枚かのページは破られ、僕の過去の記憶は分断されていた。)だけが残されていた。

「誰が取っていったんだ!」僕は怒った。
「どうしてそんな事をするんだ!」
「誰がそんな事をするんだ!」
「大切な物をどうして盗って行くんだ」
「僕が何をしたんだ」
僕はそう叫んだ。

僕の長い髪を強い東風がそよいだ。

「うっとおしいんだよ!」
髪を手でかき上げて、そしてもう一度かき上げて、僕は信じられない気持ちになった。

あることに気付いたのだ。

「嘘つきは泥棒の始まり・・・・泥棒が始まってしまったのだ・・・・罰が当たってしまったのだ・・・・」

『嘘つきは泥棒の始まり』

心でその教訓めいた言葉を繰り返しながら、自分でも可笑しくて笑い出してしまった。

「そんな訳があるか!」
そしてそう叫んだ。

つまりは僕はドラム缶と数枚の僕の過去の証明であるノートを略奪されたことを自分が自宅で電話に出なかったことに扱ぎ付けようとしていたのだ。

子供の頃からから、『嘘つきは泥棒の始まり』そう教え込まれてきたのだ。
けれどもそれは全くの正反対ではないか。

嘘つきは泥棒の始まりではない、嘘つきは略奪されるのだ。

『嘘つきは泥棒の始まり』
そんな詭弁めいた理屈が通用してたまるものか。

僕の中で築き上げてきた価値観は既に幾ばくかは崩壊し、そしてまた更に新たなる崩壊に向かい続けている。
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