プリズム ‐そしてドラム缶の中で考えたこと-
しばらく黙っていたが、突然、香山さんが口を開いて、「とにかく同じなのよ、同じでイイじゃない!」そう怒り出すので、もう僕は「わかった」と返した。

このままじゃバツが悪いので、僕は話題を変える事にした。

「ねぇ、僕も最初はそうだったんだけど、ドラム缶の中って臭くない?」
香山さんはどうでも良いという感じで、まだしばらく黙っていたけれども、やがで納得した様に頷いて、
「そうかしら、あんまり良くわからないわ、とにかく私はここでゆっくり眠れるわ。ちょうどひとり部屋って感じで」
と言った。

実は僕も同じ事をここに来て思ったのだ。
光の無い闇は怖すぎるが、ここには月という存在がある。
たとえ月が無くとも星がある。
それが無性に優しく僕の胸に輝いていた。
たとえ雲が出ていても、その向こうには必ず月と雲がある。
この安心感だけは僕が絶望しても、例え希望に満ちても変わらない。
絶対なんて物は本当は無いのかもしれない、しかしここに輝く月や星が失われる事は僕の人生において無いだろう。
それが僕には優しい。そして気持ちを落ち着ける。
こんな安心感は母体から出て以降感じた事がない。

ドラム缶。

僕は我に戻った。
そして香山さんに語らった。

「僕もそうなんだ。ここにいると安心するんだ。なんて言うのかな。たまに人は来るけど、それでもここは静かだし」
僕の言葉に香山さんはいちいち頷き返していた。

そして、やがて真剣な声で、「私はいつまでもここにいるわ、こうしていたいの。この中で独りで。子供もここで育てるのよ。そうよ、難しい事は知ってるわ。
けれどね音羽君。
やろうという意志が大切なのよ。そうでしょう!音羽君」そう言った。

僕は『本当にそうなれば良いのに』と思っていたけれど、やっぱり無理だと考え直して、すごく言葉を選んでゆっくりと否定しようと思った。
すると言葉が出る前に香山さんは猫の様な声で「分かってるわよ、子供は一人では産めないもの・・・・・・」と先に言った。

僕は急に香山さんに女性らしさを感じた。
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