プリズム ‐そしてドラム缶の中で考えたこと-
-8-卑怯者
ポケットを弄れば三百二十五円。酷い身なりをしている。
砂埃を浴びた靴。
焚き火の煙が染み付いたシャツ。
鳶色の爪垢。
とにかく臭い。
僕はシャツを脱いでその臭いを嗅いだ。
「ハァー」思わず溜め息が漏れる。何をするにせよ先ずはお金だ。
それが理解できた。僕は当ての無い資金繰りを思索していた。
「頑張ろうね」
隣で香山さんが独り言の様に呟く。
お金がなくなっても彼女は家に帰ろうとしなかった。
食費は僕が出している。
けれどももはや、その僕にもお金が無い。
だからと言って帰りたくない。
けれども風呂に入りたい。
しかし、腹が減った。
様々な『けれど』と『しかし』があいまって、とうとう僕は決断を下した。
「こうしよう!家に帰って、風呂に入って、小銭を掻き集めて冷蔵庫から食べ物を取ってくる」
僕の決断を聞いていた香山さんは甘い声で、「頑張ろうねダーリン」と言った。
僕は『ダーリン』に反応する前に『頑張ろうね』に反応した。
どうせ彼女は何もしないのだ。
僕はその事を咎めると、「うん何もしない」と返した。
今は昼の三時二十分もう十八時間も何も食べていない。
だから気が立っているのだろうと思い直して、僕はドラム缶の外に出た。
桜は殆ど散ってしまった。
僕は無数の花弁の上に立っている。
こうして見ると花弁を掻き集めれば大した量になる。
『見上げれば空と枝葉と残桜』
意味も無くそんな事を思ってみる。
一瞬、空腹を忘れた。
「すぐ戻ってくるから」
僕はそう言うと、無数に広がる桜の花弁の残骸を踏み擦りながら歩き始めた。
やはり腹が減っている。
腹が鳴った。
「待ってよ!」
僕は立ち止まって振り返った。
香山さんが後をついて来ている。一面の桜の残骸に香山さんの緑の髪の毛が映える。
僕は急にオナラがしたくなり、それを堪えた。
「家に来るの?」
僕は彼女に訊いた。
「うん」
やはり堪え切れない。僕はオナラを透かした。
砂埃を浴びた靴。
焚き火の煙が染み付いたシャツ。
鳶色の爪垢。
とにかく臭い。
僕はシャツを脱いでその臭いを嗅いだ。
「ハァー」思わず溜め息が漏れる。何をするにせよ先ずはお金だ。
それが理解できた。僕は当ての無い資金繰りを思索していた。
「頑張ろうね」
隣で香山さんが独り言の様に呟く。
お金がなくなっても彼女は家に帰ろうとしなかった。
食費は僕が出している。
けれどももはや、その僕にもお金が無い。
だからと言って帰りたくない。
けれども風呂に入りたい。
しかし、腹が減った。
様々な『けれど』と『しかし』があいまって、とうとう僕は決断を下した。
「こうしよう!家に帰って、風呂に入って、小銭を掻き集めて冷蔵庫から食べ物を取ってくる」
僕の決断を聞いていた香山さんは甘い声で、「頑張ろうねダーリン」と言った。
僕は『ダーリン』に反応する前に『頑張ろうね』に反応した。
どうせ彼女は何もしないのだ。
僕はその事を咎めると、「うん何もしない」と返した。
今は昼の三時二十分もう十八時間も何も食べていない。
だから気が立っているのだろうと思い直して、僕はドラム缶の外に出た。
桜は殆ど散ってしまった。
僕は無数の花弁の上に立っている。
こうして見ると花弁を掻き集めれば大した量になる。
『見上げれば空と枝葉と残桜』
意味も無くそんな事を思ってみる。
一瞬、空腹を忘れた。
「すぐ戻ってくるから」
僕はそう言うと、無数に広がる桜の花弁の残骸を踏み擦りながら歩き始めた。
やはり腹が減っている。
腹が鳴った。
「待ってよ!」
僕は立ち止まって振り返った。
香山さんが後をついて来ている。一面の桜の残骸に香山さんの緑の髪の毛が映える。
僕は急にオナラがしたくなり、それを堪えた。
「家に来るの?」
僕は彼女に訊いた。
「うん」
やはり堪え切れない。僕はオナラを透かした。