プリズム　‐そしてドラム缶の中で考えたこと-
要はスピードだ。

僕の周囲にはスピードがありすぎるんだ。

僕はそのスピードにはついて行けない。
けれども自分の周囲はそれについて行くどころか、更にスピードを上げようとする。

生きるためのレースをしてるのだ。
ミスターチルドレンか尾崎豊かがよくそう言っていた。
まるで混んだ首都高を猛スピードでみんなが突っ走る様なものだ。

ついてゆけない車は後ろの車を巻き込んで破滅してゆく。
僕の後ろには沖岡と言う名の緑色したカローラが見える。
僕は自分が何に乗っているのかはわからない。
しかしハンドルだけは握り締めている。

走らされている。

緑のカローラは僕を後ろから煽り倒して、五時になると突然、何も無かった様に分岐点を左折して、明日まで戻ってこない。
その後ろの更に後ろを行くのが、一人乗りで、三輪で、三角ハンドルの黄色いミゼットだ。
いつもは目にも留まらないそのミゼットが、今日はなぜか僕の前に現れている。

それがそのお婆さんなのだ。

杖も持たず。
地面を見詰めるその仕草は、荘厳であり、悲しげでもある。
刻まれている顔のしわがまるで体中を絞めつけているように深い筋をなして首筋からその体躯へと伝わる。
そしてそれは宇宙の中心がそこあるかの様に絶対的に存在している。


僕は高速道路の夢想から醒めた。


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