プリズム ‐そしてドラム缶の中で考えたこと-

-3-ゴジニジュップン

illusion

幻覚とよく訳すが、思い違いという意味もある。

僕は果たして本当に家に帰りたくないのだろうか？
自分を自分で証明する為に、僕は今日一日だけ家に帰ってみる事にした。

家に帰るとポストには宅配ピザのチラシやガスとかの請求書とかが来ていた。

いつもの事だけど、特別必要なものは来ていなかった。

僕は畳に座って、それを実生活に欠かせないものと不要なものとにゆっくり区分してみたが、やがて飽き、二回背伸びをし、それから僕はダイニングテーブルに目を止めた。

どす黒いものが見えたからだ。

テーブルの上には母が残していったフランスパンが腐っていたのだ。

『何も変わってないと思っていたのに』

風通しの良い窓からは木漏れ日が溢れ、外からはスズメの声が聞こえている。

その静けさの中で僕の血脈は緊張と緩和を繰り返し、次第に早まり、感情の受け止め方を忘れた。
そして僕の心がその何かに支配される課程をの中で、そのどす黒いフランスパンを否定する事により、僕は自分で自分の場所を確保しようとしていた。
一瞬で怒りが頂点に達して、それが爆発した。

僕はその変わり果てたどす黒い存在を窓の外に放り投げた。

冷蔵庫からバターも取り出してそれも放り投げた。

ついでに皿も放り投げた。

皿は庭に転がり白けた音で地に落ちた。

僕は憤慨していた。

そして、「僕は腐ってなんかいない」そう叫んだ。

『トゥル、トゥルルルルル・・・・・トゥル、トゥルルルルル・・・・・』

突然電話が鳴り出した。