ブラックパール
特別なことは、他にもある。

「じゃ、429頁を開いて。」

「師匠、」

「昨日は起源年の革命の話をしたからー、今日は宗教政治の章からだね。」

「あの、」

「うん?」

話を遮るとシンシアはテキストに俯けた顔をあげる。

「あたし、術式を勉強したいんですけど。」

そう。シンシアは聖戦教徒の戦闘術の要となる、術式をコウには一切教えようとしない。コウがこうして希望を口にしたところで、

「んー、まだ駄目だね。」

ひらりとかわしてしまうのだ。

「どうしてですか?」

「だって、まだ必要ないんだもん。ほら、筆を用意しなさい。きみがサボってると僕が叱られるんだから。」

シンシアは何事もなかったのようにテキストの頁をめくる。

腑に落ちないコウは、シンシアに不服の表情を見せたまま、仕方なく聖戦学のテキストを開いた。




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