狼少年の話
「おはよう、ルカ」

ダイニングルームには既にサラが席に着いており、くすくす笑いながら挨拶をしてくる。

「サラ!おはよう。今日は早いんだな」

いつもならルカが来てから起きてくるサラ。

「うん。なんだか目が覚めちゃって…」

そういうサラは顔を伏せ、どこか寂しそうにも見える。

「悪い夢でも見たのか?それとも具合が良くないのか?」

心配するルカはサラの近くに寄り、サラと自分の額に手を当てた。
んー、熱はないみたいだ。でもちょっと顔が赤い?
サラが目を見開いているのにも関わらず、ルカはさらに様子を見るため顔を近付けようとした時。

「おいこら。何やってんだくそガキ」

サロメがルカの襟首を掴んで持ち上げ、サラの向かいのイスに無理矢理降ろした。
どすっと重い音と共に押し付けられた尻に痛みが走る。

「って~。何すんだよおっさん!俺はただサラの具合を…」

言いながらサロメを睨んだつもり、だったのだが。
…男版般若がいる。

「具合を…何だって?」

「あ、いや…見ようかなぁと…」

般若サロメの恐ろしさにへどもどするルカ。
そんな2人をよそに、サラは赤くなった頬に冷たい自分の手を当てて冷やす。
びっくりした…。駄目だなぁ私…。
落ち込むさらに気付いた2人は心配そうな顔をする。

「サラ、本当に具合が悪いのか?」

サロメにそう聞かれ、慌てたサラは奇怪な声を出した。

「なぁんでもないよぉ」

「「……」」

その場にいた3人を包む空気さえも、凍りつきそうだった。

「…大丈夫か?」

「あ、あはは。大丈夫だよ。うん。大丈夫!」

「サラ…」

先程からの様子を見て、サラの気持ちに気付いてしまったサロメは泣きたくなった。
ルカの問いかけに答えるサラは、なんでもないよと笑顔を見せている。
焼きたてのパンの匂い、温かいスープの湯気、新鮮なサラダの瑞々しさ、いつもの朝食はずっと変わらない味で3人の胃を満たした。
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