狼少年の話
「ガジェット!」
勢いよく役所の扉を開き、ドクは部屋の中に所長の姿を探す。
役所は2階建てになっており、1階は事務所、2階は所長室になっている。
ドクに驚いた者達が慌てて所長は2階にいると口々に言う。
それを聞いて2階への階段を駆け上がり、所長室の扉をノックして開けた。
「ドク村長…。どうしました、そんなに息を切らせて」
執務の仕事をしていたガジェットはドクを一瞥してそう言い、仕事を続ける。
「どうしたも何も、分かっとるだろう!」
息切れしていることも忘れて、ドクは叫んだ。
ガジェットは気に留めることもなく、書類を読んではサインをしていく。
「ルカ少年のことですか。私は妥当だと思いますが?」
ドクの額に青筋が浮かび上がった。
何を。
何を言っているんだ、この男は。
「まだ15なんだぞ?子供が嘘をつくなど大したことなかろうが!」
「15にもなれば、良い事と悪いことの判断はそれなりにつくはずですよ。それにルカ少年の虚言は悪質です。村人たちを恐れさせ、噂となって他の村まで広がり、結果、先日の騒ぎを引き起こした。しかし反省の色も見せず、嘘を言い続けている。止める意思がない以上、被害が出る前に罰せねばなりません。何か問題が?」
ガジェットの冷然な態度にドクの怒りは増すばかりだった。
大方ガランのやつが吹嘘でもして処刑の申請をしたのだろう。
ガジェットは1人息子に弱い節がある。
「だからといってなぜ死刑にする必要がある!?罰するなら他にいくらでもやり方があるだろう!」
ドクがいくら語気を荒げて叫んでも、ガジェットが冷静さを失うことはなかった。
漸く書類から目を離し、サインする手も止めてドクを見つめる目は、冷たい色をしている。
「甘やかしてはつけ上がるだけです。悪は徹底的に排除しなくては」
それ以降、ドクの声に耳を向けず、已む無くドクは役所をあとにした。