狼少年の話
狂狡の娘
村人たちが悲鳴を上げる中、騒ぎを聞きつけてきたドクは我が目を疑った。
血の流れる地面に転がる村人の死体、ガランの目を見開いたままの頭。
その近くには散った花に埋もれた体がうつ伏せで倒れている。
そして逃げ惑う村人を追いかけ鋭い爪で切り裂いていく、少女とも狼とも言えるそれ。
サラが着ていたワンピースは血に染まり、白い服だったとは思えない。
頭と胴体はかろうじてサラのままなのだが、炯眼がもはやサラが正気ではないことを語っていた。
「なんということだ…。恐れていたことが起こってしまった…」
ドクはその場に崩れそうになるのを必死に堪える。
そこへ向かい側の方からサロメが走ってくるのが見えた。
「サロメ…!」
ドクは急ぎサロメの元へ走った。
現状を見たサロメは真っ青になった顔で、ドクを見つめた。
「村長…。これは一体…」
ほとんど涙目のサロメにドクは伏せ目がちに推測を告げる。
「向こうにガランが転がっとる。おそらくルカの事を理由に言い寄ろうとでもしたんだろう」
「あのバカ野郎…!」
村人の悲鳴が響く中、2人はひたすらにサラを止める方法を考えた。
早く止めなければ村が滅んでしまう。
そしておそらく自分たちもサラに殺される。
まるで狼族を滅ぼしたあの日のようだと、ドクは思った。
「報いなのかもしれんな…」
ドクの呟きにサロメは眉間にしわを寄せる。
「村長、やめてくれ。サラは優しい子だ。こんなこと望んでいるはずがない。そう…俺が森の中であの子を見つけた時から、穏やかで心優しい子だったんだ」