狼少年の話

ちょうど17年前、サロメが森で狩をしていた時、赤子の泣き声が聞こえた。
不審に思ったサロメが声の方へ寄ると、大樹の根元に開いた穴に泣いている赤子と、その傍らに息絶えた女性が倒れていた。
女性はおそらく母親なのだろう。
辺りを見渡してみたが父親らしい人影はない。
変わりに人の形によく似た狼が死んでいた。
心臓が大きく跳ねた。

狼族の生き残りがいたのか…!?
狼族は人間よりも長命だ。
滅亡を告げられた時から、これまで生き延びていてもおかしくはない。

サロメは赤子を抱き上げ、あやした。
その時に見た赤子の左手は、人のそれとは違い、毛深さの中に鋭い爪が生えていた。
その赤子は間違いなく、死んでいる狼族と女性の子供だった。
サロメは黙って赤子を連れ帰った。

サラはそのことをサロメから、ルカはサラから聞いた。
そして翌日、ルカは叫び始めた。
狼は確かに生きていた。
そして今もまだ生きている。
そのことを伝えるために。
そしてサラの願いは…

「ウォォォォン!!」

サロメが思いに耽っていた矢先、離れた場所から銃声と咆哮が響いた。
その音にサロメとドクは一瞬顔を見合わせ、同時に走り出した。

「サラ!!」

村の入り口に着いた2人がこちらに背を向けて立つサラを見つけ、サロメが叫んだ。
振り返ったサラは両手に男の頭を鷲掴みしている。
その1人は見たことのある男だった。

「…カガミ!?」

ドクが驚いて言うと、サロメはサラから視線を外さないまま、誰だ?と聞く。

「この前、狼退治だと言ってここに来た男だ」

ドクの答えにサロメが男のことを思い出していると、サラは掴んだ男たちを左右に投げ捨て、2人に向かって走り出した。
これはきっと報いだ。
サロメがサラの名を叫ぶ隣で、ドクは静かに目を閉じた。
< 27 / 31 >

この作品をシェア

pagetop