狼少年の話

「……」

「サロメ、放っておくのか…?」

何も言わないサロメにドクが耐え切れずに問いかけた。

「このまま放っても、狼の治癒力で傷が癒えるぞ。そうすればまた村を襲いかねん」

ドクに続けてカガミが言い、サロメは2人を振り返って言った。

「それでもいいさ。その時はその時だ。俺は…俺には出来ない。サラの死ぬ姿も見たくないんだ…」

「言ったはずだぞ。サラの願いは…」

「分かってる!俺だってできることなら叶えてやりたい!だが、それだけはどうしても出来ないんだ…!」

サロメの悲痛な叫びに、ドクもカガミもそれ以上は何も言わなかった。
気持ちは解らないわけではない。
むしろ痛いほど解る。
ドクもカガミも子を持ったことのある身だ。
そうして3人は黙ったままその場を立ち去った。

そしてこの日の夜中、カガミは1人森の中にいた。
サロメが出来ないのなら俺がやるしかない。
親心は解るが、俺は狼にその家族を奪われたんだ。
それに、これ以上犠牲を増やすわけにもいかない。
カガミは猟銃を抱え、大樹に向かった。

「…!!」

しかし、昼間確かにサロメが横たえたはずのサラが、そこにはいなかった。
大樹に開いた穴は冷えた空気で満たされていた。
手に持ったランタンで中を照らしてみると、落ち葉に血がついている。
確かにここにいた。
一体どこに行ったんだ…。
こんなに早く傷が癒えるはずはない。
カガミは焦る心を抑えて辺りを捜し始めた。
< 29 / 31 >

この作品をシェア

pagetop