狼少年の話
あの日の約束
「サラ、桃沢山とれたよ」
カゴいっぱいに桃を入れたルカがサラの方へ歩いてくる。
出逢った時のことを思い出していて、サラの表情が緩んでいたらしい。
「どうした?思い出し笑いでもしてたみたいな顔して」
妙な核心を突いて顔を覗いてくるルカに驚き、拍子に顔が少し熱くなった。
「うん。少しね、初めて逢った時のこと、思い出してたの。あ、おいしそうな匂い」
赤くなった顔を隠すように、サラはルカが手に持ったカゴに向けて俯く。
「あー、あの時は俺もまだガキだったなぁ」
高く青い空を見つめ、ルカは呟いた。
その言葉にサラは声を上げて笑う。
「あ、今だってガキだとか思っただろ?少しは成長してるんだぜー?」
ひねくれた物言いのルカに、少しなんだ!と尚更笑いが込み上げるサラ。
そしてあの日と同じように、桃の木の下に敷物を敷いて座った。
今は8月下旬だから、吹く風が少し冷たい。
ルカは持ってきた肩掛けをサラに掛けてやり、サラは笑顔でお礼を言って、とれたての桃の皮を剥いていく。