メイドさんの恋愛事情
第0章
「お父さんっ!お母さん!」
ふちに黒いリボンをかけられた写真の中で、幸せそうに笑っているのはあたしのお父さんとお母さん。
「やだあ…っ!お父さんとお母さんを連れていかないで!!」
白い箱に入れられて、車にのせられようとするお父さんとお母さんに必死にしがみつく。
「目覚ましてよぉっ…!あたしを置いていかないで!」
わんわんと泣くあたしを見て、親戚の人達がひそひそと話し出す。
「妃菜ちゃん、まだ5歳なのに。2人とも交通事故なんて…」
「相手の飲酒運転でしょう?本当たちが悪いわね…」
“死ぬ”なんてことがよくわかってない頃だから、あたしにとってお父さんとお母さんが連れていかれるのはすごい恐怖だった。
「妃菜ちゃん…、お父さんとお母さんにちゃんとお別れしよう?」
あたしの腕をひくのは、お母さんのお兄ちゃん、つまりあたしのおじさん。
「いやだっ!あたしもいっしょに行くっ!ずっといっしょにいるの!」
棺から離れようとしないあたしの手を、おじさんとおばさんがひく。
「妃菜ちゃん、お父さんとお母さんを笑顔で送ってあげよう?お父さんとお母さんは妃菜ちゃんの笑顔が大好きだったんだよ」
おじさんが笑顔でそう言う。
そのときに、おじさんの目からも涙が溢れ出した。
「妃菜ちゃんがおっきくなるのを楽しみにしてたのに…、佳代と幸博くんは…。」
そのときに、悲しんでるのがあたしだけじゃない、ってわかって。
あたしは無理やり笑顔を作った。
「バイバイ、お父さん、お母さん」
この日から、あたしはいつでも笑顔を作れるようになったんだ。