メイドさんの恋愛事情
「何ここ」
あたしが乗ったベンツは、ばかデカい家の前に止まった。
あたしの身長の3倍はある門の向こうには、広大な庭。
庭に綺麗な噴水やウォータースライダーまであるプール。
えぇぇぇ。
あ、有り得ない…。
車が庭を通り、玄関の前につく。
運転をしていたおじいさんが、ドアを開けてくれた。
そしてその瞬間に、小さいけれどはっきりとした声で言った。
「くれぐれも言動にはお気をつけ下さいね。先ほどのようなことをされたら、本当はチョキン、ですので」
チョキン、と言うのと同時に首に手をあてる。
チョ、チョキンって…。
さっき力任せに殴ったあれ?
でも、そんなに怒ってるようには見えなかったし、何より誰もそんなの見てないでしょ…?
そう思った瞬間、あたしの目の端に映ったのは黒い影。
あれって……。
あわあわと口をパクパクさせていると、おじいさんは満足したように穏やかな顔に戻った。
「じい、何話してるんだ?」
「たいしたことではございませんよ」
コイツ……、本物のお坊ちゃまなんだ…。
そう思うと、全身に鳥肌がたった。
怖い……怖すぎる。